2014.01.22
2000年代前半、日本の東西BBOYシーンの雄であったWASEDA BREAKERSと一撃。RAW SKOOLでは以前、WASEDA BREAKERSからCHAO氏のインタビューを行い、大変な反響を頂きました。
今回は、そのCHAO氏に加え、多くのBBOYのロールモデルとなるであろう二氏:PRINCE & NON-MAN(ともに一撃)を交えて、BBOYに限らず、ダンサーのあり得る選択についてフリートークを実施しました。
CHAO氏は会社経営者として、PRINCE氏はMortalCombatのJuju氏と二人でCG制作会社を経営、またNON-MAN氏は弁護士として、第二・第三のステップを歩んでいらっしゃいます。多くの10代・20代のダンサーにとって、このお三方がダンスを通じて得た人とのつながりやクリエイティブなマインドなどは、とても参考になることが多いと思います。
多くのダンサー、そして何かに打ち込んでいる人に、是非読んで頂きたい内容。ちょっと長いですが、ご一読下さい!
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ABE(RS):今日は、BBOYを経て、別のステージに行った人で雑談しましょうという企画で、皆さんに集まって頂きました。よろしくおねがいします。
全員:よろしくおねがいしま〜す!
RS:まずはみなさん、BBOYとして世界を経験したのち、ダンスとは全く別の分野で起業されている方々ですので、その辺りのお話からお伺い出来ればと思っております。
CHAO(C):ちょっと関係ないかもだけど、スケート(スケボー)の世界でいえばやっぱりロドニー・ミューレンとかすごいよね。あ、そういやみんな、ちゃんとロドニー・ミューレンの本※、読んだ?(笑)
※『ザ・マット(THE MUTT)』:スケートボード史に偉大な足跡を残したロドニー・ミューレンの半生を描いた自伝。
RS:すいません、まだ読んでいません(笑)。…ええと、早速なんですが(笑)、今みなさんがやられていることに、ダンスの経験はどのように影響していますか?例えば、NON-MANさんだったら、弁護士の勉強においてのお話、聞かせて頂けますか。
C:お!なんかとてもいい質問きたね!
NON-MAN(N):勉強はダンスより辛かったですね。僕、記憶力が全然ないんです。けれど、ダンスでは、それこそフランスのJuniorなんかが両脚なくてダンスしていたりするわけですね。そういう、制限のある中でのクリエイティビティとか工夫というところの意識はダンスを通じて学んでいたので、なんとかしようと。
それで、暗記ではなくて、法律が何故そうなっているのか、っていう「仕組み」を考えるように意識をおきました。例えば、フットワークで何故ベタ手が駄目なのか。僕は結構そんなところを考えていたんです。その経験を勉強でも応用しようと。これはダンスで学んだ発想がとても役に立ちましたね。
PRINCE(P):僕の場合(CG制作)は、最初は、映像って音楽に合わせて構成を考えたりダンスとすごく似ているところも多くあって、「あ、これなら歳取ってもずっと踊れるぞ」って思ったのがきっかけでした。
で、プロになった今、いわゆるCMとかPVとかっていうもの、つまり広告の仕事をしているんですが、広告って、まさに「広く告げる」ことじゃないですか。実はこれは僕のダンス感とは真逆で、例えばダンスなら、僕は自分のエゴ丸出しで100人中1人に理解してもらったらそれでいいんですけど、広告の世界では、それとは全く逆の方向でチャレンジしている。
結局僕の感覚は、ダンスと仕事の世界が、意外と間逆だったりします。
RS:すごく興味深いですね。ついダンスとつなげてしまいそうなところを、クリアに整理がついているところがすごくユニークだなと思います。
P:それで、ダンサーからの次のステージってことなんですが、仕事でちょっとずつ経済的にも余裕が出てきて、今度はまたダンス界にフィードバック・・・ってほど偉そうなものでもないんですけど、近所の子供たち集めてダンス教えたり、そいつらがいつ来ても練習できるような施設作って開放したり・・・って事もしています。
そんな中でダブルダッチの子達と絡む事が出てきたんですけど、ダブルダッチの世界はダンスよりも更に経済的には発展途上で、みんな食えない。
でも、学校とか施設を回って、無償で子どもたちのために活動しているんですね。つながりを大切に、何が出来るかを考えて活動している。自分は、経済的にちょっと余裕が出るまでは、若い子達の為に・・・なんて考えもしなかったです。そういうことを初めからやっていることに、本当に感心しています。
で、RAW SKOOLをちょっと褒めますけど(笑)、阿部ちゃん(RAW SKOOL Co-Founder)がインタビューで、「社会全体のシステムとして、下の世代が上の世代を支えるシステムからそろそろ脱却しないといけない」って、本当にそうだなって思って。海外との交流とか、タダで子供たちのためにワークショップやったり、新しい流れをつくっていると思います。
僕がやっとこさ余裕が出来て、ようやく考えとして出て来たことを、最初からやってるんだもん(笑)。
何か「次のステージ」って、「ダンサーが次はビジネスで成功する」とかそうゆう意味じゃなくて、例えばそういった新しい流れを作ることも入るんじゃないかなって思っています。
RS:理解して下さって、ありがとうございます。おそれ多いですね…(笑)。一緒に立ち上げたYOSHIは特に始めたときからずっとそういうことを強く思っていて、彼のほうが思いは強いかもしれませんね。
C:阿部ちゃんたちは、例えばWATA君のインタビューとかにしても、経営者へのインタビューとかにしても、やることの角度が違って面白いよね。
N:BBOYをやりながらも別のステージで挑戦したいっていう人も多くいると思うんですけど、なかなか難しいんですかね?
P:ビジネスの世界でも活躍できる人、ダンサーにはたくさんいると思います。けれど、ダンサーって、ちょっとしたレッスンして、微妙に食っていけちゃうじゃないですか?夕方起きて、レッスンやって、って。それも次のステージにいける人を少なくしてる一つの要因なんじゃないかな?って思います。
僕はレッスンプロ自体に全然否定的ではないんですけど、例えばですが「素敵なことや経験を次の子たちに伝えたい」といった、何かしらの目的意識なしに、「わりの良いバイト感覚」でやってる人は、せっかくだから、そろそろ見切りつけて次のステージを目指してもいいんじゃないかな?って思います。
「ダンスを仕事に」するには、「仕事しながらダンスする」より何十倍も大変だってことを覚悟していれば良いんじゃないかな、と思います。プロとしてやっていくなら、朝きっちり起きて、規則正しい生活をして、トレーニングや練習をして、メディアもうまく使えないといけないし、要はビジネスでもプロダンサーでも何でも良いけど「本気でやり続けてほしい」って思います。
「本気でやる」のは割と簡単です。でも「本気でやり続ける」のは本当に難しいです。もちろん自分にとっても言えることなんですけど。
RS:僕から見た背中で言えば、WASEDA BREAKERSがすごく大きいです。僕がダンスを始めた2003年頃、事実上の日本一決定戦だった三飯(※三度の飯よりBreakin’)を二連覇して、それでいて皆さんお勤めされていました。CHAOさんはすでに独立していらっしゃったし、JACKさん、WAKATAKEさん、みなさん、スーツを着て、フルタイムでしたから(笑)。その凄さを年々感じています。
そういうのもあって、「俺ダンスやりたいから仕事しない」っていうのはちょっと違うなあっていうのは、始めたときから、早稲田の先輩を見て自然と学びましたね。
N:一撃のみんなもWASEDAのスタイルだけでなく、先輩方のスタンスに大きく影響を受けてますよ!
C:ゲゲェ!マジで!?それ遠藤(JACK氏)喜ぶから、書いてあげて(笑)。
P:たぶんみんな、仕事してみないとその凄さ分かんないんじゃないかなぁ(笑)。
RS:僕達がRolandを取り上げたのもその角度なんです。YOSHIの親友っていうこともありますけど、最近BATTLE BORNで、BOTYもR16もアメリカチャンピオンになって、STYLE ELEMENTSにも入って、2人子供いて、フルタイムで仕事もしている。バトルもキレキレだし、スタイルも貫いてるし、カッコイイな!って。
C:うん、学生の時と同じように、とは言わないけど、出来ると思います、働きながら。
P:偉いといえば偉いですけど、自分の感覚としては、25越えたらそれが当たり前とも思いますけど。
N:でも、僕も学生時代は、ダンスしかしてなかったしなぁ…ただ、ダンスに取り組む中で、基礎・オリジナル・スキル・踊り込み等、ダンスの要素を並行してマネジメントする経験ができたのは大きかったのかも。そんな経験が、仕事や、やるべきことをやりつつダンスにも取り組むことに活かされてるのかもしれないなと。
C:僕もエクストリーム一輪車を始めた時、仕事から帰ってくるのが夜中の23時とかで。そこから、毎日2、3時間、週6以上で練習してたし、始めたのも35歳からだったし(笑)、全然いけると思います!
RS:ちなみに、みなさん今後のステップはどのように考えていらっしゃいますか?
C:とりあえず、あと5年で今やっていること諸々カタチにしたいと思っています。目標立ててそれに向けて必死にやらないと、絶対に途中で怠けるし(笑)。
その後のビジョンは正直ぜんぜん見えてませんが、でも、5年後に隠居するつもりで本気で頑張っています。自分の父親が55歳で亡くなってるから、それベースで考えるともう時間がないんですよね(笑)
で、ビジネスに繋がる繋がらない関係無く、新しい事にはどんどん挑戦していきたいです。
P:デザインって、15年くらい前ではプロが作った完璧なものにみんな熱狂したんですね。でも今はYouTube、ニコ動、初音ミクとかプリクラもそうかな?誰かをヒーローにしてあげるというツールが受けている時代なんです。
そこにプロのテクノロジーは確実に存在するんだけど、プロは出てこない。皆自分が主人公になりたいし、実際皆主人公じゃないですか、その人生では。だから、プロが大金かけて作った映画よりも、携帯で撮った日々のちょっと良いことに涙することもあるわけで。
みんなデザイナーでみんな監督って、最高に楽しい時代だと思うんですよ。もちろんこれからもプロとして完璧なものを作っていきたいけど、同時に皆にヒーローになってもらえるような、そんなツール開発もやっていくつもりです。
C:僕が今やっている旅のプロジェクトでも、僕自身は表にはあまり出ないでバックアップに徹する役割をしていきたいです。例えば旅から帰ってきて、自分のお店を出したい人、起業したい人、本を出版したい人、プロのカメラマンやデザイナーやミュージシャンを目指している人とか。そういう夢や目標を持っている人たちに、一歩を踏み出すきっかけや、つながりとかチャンスを作れる場所を作って行けたらいいなぁって思っています。
N:ようやく最近、弁護士の仕事に慣れてきて、ファンデーションを学んできて。これから自分らしくオリジナルスタイルを作って行きたいなと思ってます。
例えば、今、大阪でNOONというクラブの風営法摘発事件の裁判に携わらせていただいているんですけど、僕がクラブデビューした場所で、僕のダンサーとしての経験を活かさせていただいていて、原田さん(MACHINE原田氏)なんかとも一緒にお仕事させていただいたりしています。
こうやって、今まで繋がって来た人たちを、僕なりにサポートできたら嬉しいですね。自分の感覚で、誰とどんな仕事をするかを選びとって、最終的に自分のスタイルを築いていきます。まだ具体的なイメージはありませんが。次のステップで必要なことが見つかったらすぐに飛びつくと思いますね。
C:なんか若者っぽいなぁ(笑)。けど、一撃としてやってきたNONちゃんが言うと、説得力あるし、フレッシュだね。
RS:みなさん三者三様で、ものすごく楽しみですね!多くのBBOY/BGIRLやダンサーが、お三方のやることで必ず刺激を受けると思います。最後に、みなさんから次世代へのメッセージをお願いします!
P:これは結構いつもジャッジコメントで言ってるんですけど、
10代のBBOYへ。勝ちにこだわってほしい。いい踊りができればそれで良いなんて勝ってから言え。あと友達を大切にしろ。
20代へ、勝てば良いなんて10代まで。自分のこだわりを大切に、曲げないで良い踊りをしろ。そして、同時に仕事も頑張ってほしい。社会に貢献してこそ、社会人だと思います。
30代、続けてくれ。僕も頑張る。20代で頑張って、社会でそこそこいいポジションについているなら、シーンに恩返しをして欲しいと思います。
そして40代へ、あなたたちが現場に来てくれるだけで、僕達は嬉しい。踊れなくても、来て、一緒に楽しんで欲しいです。他のスポーツだったらありえないですよね。子どもとオッサンが同じサイファーをガチで出来るなんて。
最後にキッズ達へ、数ある遊びの中からダンスを選んでくれてありがとう。「ダンスが好き」って言って皆が恥ずかしい思いしないように、僕たちみんなで頑張るからみんなもダンス頑張って!それが僕からのメッセージです。
N:僕はダンスを通じて、自己肯定感をもらいました。親に勉強ビシビシさせられて、自分に自信がない中でブレイキンを始めて、オリジナリティが大事って言われて。
例えば、最初は「身近な先輩がカッコいい!」から始まって、こっちの人もカッコいい!となって、だんだん自分の世界が広がっていって、自分の感覚がどんなところに反応するのかが分かっていきました。そんな中で自分がどういう人間なのかを学ぶことが出来て、自分のスタイルをセルフプロデュースすることができました。そういうセルフプロデュースの経験は、ダンスに限らず、今後必ず生きるものだと感じます。みなさんにも今の感覚を大事にしてほしいと思います。
C:2013年から始めた旅のフェスも、ダンスやっていなかったら、きっとあそこまで実現できていないんです。今だから言えるんですけど、僕、起業してからは「人脈なんてクソ食らえ」って思いながら、やってきてたんですね。
でも、15年間、ダンスに人生を賭ける勢いで頑張ってきたからこそ、今でも繋がっていて、支えてくれている人がたくさんいるんだなって事に気付かされました。フェスで言えば、協賛企業だったり、色々な協力をしてくれたり、人脈を繋げてくれる人だったり、皆ダンスをやってた時の仲間や後輩なんです。しかもこれ、一人や二人ってレベルじゃないんですよ。
ダンスを中途半端にやっていたら、ここまで親身になって協力してくれる人もいなかったんじゃないかなって感じています。ダンスに限らず、やるからには何でも一生懸命頑張るっていうことが将来生きるんだなって思えるし、当時は何も考えてなかったけど、がむしゃらに頑張ってきて、よかったなって本当に思います。
実はかつて、青春時代の大半をダンスに費やした事や、カナダやテキサスに長期間行ったりしたことで、だいぶ時間無駄にしたかな、って後悔しそうになったこともあったけど、今は、ダンスは僕の誇りです、って自信を持って言えます。
結論としては、死ぬ気でプロを目指したり、目標を持って一生懸命やるなら、好きなだけ何歳になろうと、とことんやってていい、ってことなんだと思います!コレで、締まったカナ?!
RS:バッチリですね!(笑)その言葉でたくさんの人が勇気づけられると思います。みなさん、本日は本当にありがとうございました!
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今回の座談会は、CHAO氏が1月8日にオープンしたカフェ&レストラン『r∞t(ルート)』の工事現場で行いました。
人と人とをつなげる場所、素材にこだわった「家庭料理」を提供してくれます!
cafe&kitchen 『r∞t(ルート)』
164-0001 中野区中野3-36-5
サブカルチャーの聖地・中野の駅からすぐ。アットホームな雰囲気で、2階ではイベントを催すとのことです。BBOYや旅人に限らずとも、要チェックなスポットになりそうです!!
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